
ネットスーパー事業における最大の課題は、いかに運営コストを抑えつつ「黒字化」を達成するかです。 そのために欠かせないのが、一人の顧客が生涯でどれだけの利益をもたらすかを示す「LTV(ライフタイムバリュー)(*)」の最大化です 。
連載第6回となる今回は、ネットスーパーの売上を支える「ロイヤルユーザー」に焦点を当てます。 実際の購買データ(定量)とユーザーインタビュー(定性)の両面から分析することで見えてきた、「売上上位20%の顧客の特徴」と「継続利用を生む本当の理由」について解説します 。
(*)LTV(ライフタイムバリュー):顧客が自社との取引を通じて生涯にわたってもたらす利益の総額を示す指標。この記事では、初回利用から1年間の累計購入金額を指標として分析しています。
まず、ユーザーの利用実態を定量データから紐解きます。 初回利用から1年間の購入データを分析すると、非常に明確な傾向が浮かび上がりました。
購入金額上位20%の「ロイヤルユーザー(H層)」だけで、売上全体の約7割(69.6%)を占めています 。 これは、ネットスーパー事業の収益安定化において、ロイヤルユーザーの育成と維持がいかに重要かを示しています。

ロイヤルユーザーの特徴:
「日配品(牛乳・卵・豆腐など)」「惣菜」「加工食品」の購入比率が高い 。
ネットスーパーを特別な買い出しではなく、「日常的な習慣」として利用している 。
非ロイヤルユーザーの特徴:
「米」「飲料」「酒類」など、重くてかさばる商品の比率が高い 。
重い荷物を運ぶ手間を省くための「利便性」重視の単発利用になりがち 。


既存ユーザーと新規ユーザーを比較しても同様の傾向が見られます。 入り口(新規)では「飲料などの重いもの」がきっかけになりやすいですが、そこからいかに「日配品」など日常商品の購入へ誘導し、日常使いを定着させられるかが、LTV向上の分かれ道となります 。

次に、どのような属性のユーザーがロイヤル化しやすいのかを見ていきます。
ボリュームゾーンは40-50代: ユーザー数として最も多いのはこの層であり、ロイヤルユーザーの構成比も高い層です。



ここからは、retail HUBが実際に運営事務局側となり実施した、リウボウストア様のユーザーインタビューの内容をご紹介します。
事例①:生活の質を重視する40代主婦
利用のきっかけ: 引っ越し先で好みのスーパーがなく、車も使えなかったため(利便性)。
継続の理由: 「刺身など生鮮食品の品質が良い」「他にはない品揃えがある」 。

事例②:育児に追われる30代主婦
利用のきっかけ: 妊娠中で外出が困難になり、重いものを届けてほしかった(利便性)。
継続の理由: 「他社では手に入らないこだわりの商品(日配品など)がある」「特定のブランドを指名買いしている」 。

インタビューを通じて見えてきた共通点は、「入り口は利便性だが、定着の理由は『商品力』にある」ということです 。
今回の分析から、ネットスーパーの黒字化に向けた重要な戦略が見えてきました。
定量データで実態を把握する: 自社のロイヤルユーザーが「何を買っているか」を知り、LTVの高い属性(子育て世帯など)を特定する。
定性調査でインサイトを探る: 「なぜ使い続けているのか」を深掘りし、自社の強み(品質や独自商品)を再確認する。
施策に落とし込む: 新規ユーザー(重い物需要)に対し、自社の強みである生鮮・日配品を訴求し、日常使いの習慣化を促す。
ネットスーパー事業は、地域ごとの商圏特性やユーザー属性によって戦略が異なります。だからこそ、画一的な施策ではなく、データと生の声を組み合わせた分析が不可欠です 。
retail HUBでは、システム提供だけでなく、こうした「ユーザーインタビュー(定性調査)」の設計から実施、分析までをワンストップで支援しています 。『デリッシュキッチン』などのメディア運営で培ったノウハウを活かし、ユーザーの深層心理を引き出すことで、現場スタッフのモチベーション向上や具体的な改善施策へとつなげます 。

【次回予告】 次回の記事でも引き続き、ネットスーパー事業の黒字化に向けた具体的なノウハウや成功事例をご紹介します。お楽しみに。


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