
ネットスーパーの売上を伸ばすために重要となるのが「集客」です。実店舗とは異なり、ネットスーパーはサービスを開始するだけでは認知されず、利用には至りません。ネットスーパー開始時に多くの小売企業様が抱える、「いかに認知を取り、会員獲得から利用まで繋げるか」という悩みに対し、具体的な手法と戦略を解説します 。
ネットスーパーの集客施策は、ユーザーの心理に合わせて「認知 → 興味・検討(刷り込み) → 行動(登録・利用) → 継続利用(ロイヤル化)」の4段階の目的に整理することができます。各フェーズで打ち手の役割が異なるため、それぞれの施策を「どの目的に位置づけているか」を意識した上で選定することが重要です。

各目的における代表的な施策と狙いは下記の通りです。
なお、デジタル広告はキャンペーンの施策内容や出稿媒体によって「認知」・「行動(登録・利用)」どちらの目的にも少額から活用できることもポイントです。

さらに、流入経路別の登録後の累計売上を比較したところ、「チラシ・郵送物」「店頭案内・店員推薦」をきっかけに利用を始めたユーザーは、調査回答者平均を上回る売上水準となっていました。

つまり、店頭起点やチラシ・郵送物経由で獲得したユーザーは、1 人あたりの LTV が高い層と考えられます。集客リソースは、これらのチャネルに集中させていくことが、効率的な獲得の鍵となります。
さらに視野を広げると、過去の記事でも取り上げた通り、ネットスーパーと店舗を併用する利用者は、店舗のみ利用者と比べて月間の総購入金額が 4.2 倍にのぼるというデータもあります。店舗が持つ既存顧客基盤を最大限に活かしてネットスーパーに送客することは、店舗側にとっても、その顧客のウォレットシェアを引き上げる打ち手となります。
※参考記事:【連載企画①】ネットスーパー事業を紐解く(ネットスーパー&店舗併用者のウォレットシェアの高さ)
集客施策を設計するうえで、まず行うべきは事業目標の明確化です。「いつまでに、何人のユーザーを獲得し、どの程度の売上規模を目指すのか」── この事業観点を出発点に置くことで、必要となる獲得人数・投資規模・投資回収期間が決まり、はじめて「1 ユーザーあたりの投資回収ライン」を引くことができます。
この投資回収ラインを、施策レベルで設計・評価するための指標として意識すべきなのが、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値) / CAC (Customer Acquisition Cost:顧客獲得単価)です。LTV は 1 人のユーザーが利用期間を通じてもたらす累計利益、CAC は 1 人のユーザーを獲得するためにかかったコストを指します。投資回収ラインから逆算する形で、「ここまでなら払ってよい CAC」「ここまで使ってもらえれば回収できる LTV」── これらを基にネットスーパー事業の LTV/CAC 目標値を設定していきます。

施策の評価は、「CAC の絶対額」ではなく「LTV/CAC 比率が想定範囲内に収まっているか」を軸にします。獲得コストが高くても、それを上回る LTV が見込めるユーザー層であれば、想定範囲内である限り積極的に狙いに行くべきセグメントです。逆に、CAC を低く抑えられたとしても、その後の利用が伸びず想定 LTV に届かないチャネルは、見直しを検討する場合もあります。これは個々のユーザーの良し悪しの話ではなく、「サービスとフィットするユーザーをどの施策で集められたか」という、施策側の課題として捉えるべきものです。
施策の振り返りでは、「目標 CAC を下回っているか」「LTV の高いユーザーをどの施策で獲得できたか」の 2 点をチャネル別に確認し、次回施策に活かしていきます。「将来の利益貢献度が高いユーザー層を効率的に獲得できているのはどの施策か」── この観点で振り返ることが、無駄打ちを減らし、安定した事業成長につなげる前提条件になります。

ここからは、具体的な施策事例を見ていきます。2章で述べた通り、立ち上げ初期は「店頭起点の集客」を軸に「チラシ・郵送物」で潜在層を厚くしていくのが基本戦略です。これらのチャネルでの取り組みの一部を紹介します。
店頭起点は、コストの観点でも優位な打ち手です。ポスターや POPの掲載、サイネージでの動画放映は制作にかかる初期費用が中心で、一度掲示を行えば獲得人数が積み上がるほど 1 人あたりの CAC は逓減し、LTV/CAC が高まっていく形になります。
だからこそ、店頭での掲出物が「日常動線上でいかにサービスを意識させられるか」が重要になります。
以下は具体的な展開例です。

【掲出のポイント】
来店ユーザーの目につくポイント(日配商品や、重たい商品の近くなど)にポスターやPOPの掲載、サイネージの動画展開をし、利用イメージを醸成します。これにより「刷り込み」を行い、次のステップである会員登録の成功率を底上げします
実際にお客様へお声がけし、その場で登録をサポートする有人施策は極めて有効です 。実際に店頭ブース展開を実施し、店内告知を強化した月は、新規登録者数が従来の442%と大幅に伸長しました 。
ネットスーパーは若い世代はもちろん、年配の方々も含め老若男女の方々に利用されています。アプリの登録が不得手な方でも店頭でお声掛けをし、登録までハンズオンで丁寧に説明することで、お客様の満足度も高くユーザーを獲得できます。

ポスティングは商圏内の潜在顧客へ告知ができ、「紙の現物」として家庭内に残るメリットがあり、2章でも解説したように、獲得したユーザーのLTVも高い傾向もあります。そのため、配布物はクーポンコードや初回利用キャンペーン告知を織り込むことで、登録や初回利用まで至る高い効果も期待できます。
しかし、同じエリアへの継続配布は効率が漸減する傾向もあります。

【同一エリアへの獲得効率の変化】
左のグラフが示すように、同一エリアへの配布は回数を重ねるほど獲得効率が低下し、配布3回目には初回比で48%まで落ち込むこともあります。ただし、効率が下がること自体が問題なのではなく、判断軸はあくまで「目標CACの範囲内に収まっているか」です。
施策の摩耗により「獲得効率が落ち、目標CACを超えていないか」を見極めることが重要です。
【エリアの見極め】
右のエリア別データが示すように、エリアBやCのように、2回配布しても全く反応がないエリアも存在します。こうしたエリアは生活者の属性や競合環境などからサービスとの相性が悪い可能性があります。エリアごとの反応を見極め、反応の良いエリアへの集中投下や他施策へリソースを再配分することが重要です。
ネットスーパーの成功は、単なる「認知拡大」ではなく、「利益を生むユーザー(高LTVユーザー)をいかに効率よく獲得・維持するか」にかかっています。
立ち上げ初期は、すでに店舗との信頼関係がある「店舗利用者」をターゲットに、店頭起点の打ち手(店頭告知・店頭ブース)を軸に、チラシ・郵送物で潜在層を厚くすることが、最も投資対効果の高い戦略となります。
しかし、集客は登録がゴールではありません。施策ごとに獲得したユーザーの LTV(累計利益)と CAC のバランスを振り返り、「どのチャネルが将来の利益に貢献しているか」を定量的に判断する必要があります。「獲得コスト(CAC)」と「将来の利益(LTV)」のバランス(LTV/CAC)を常に最適化し続けることこそが、ネットスーパー事業を軌道に乗せるための鍵となります。
次回は、この集客で獲得したユーザーのLTVなどから、さらに解像度を上げる解説を行います。お楽しみに。


© every, Inc. All Rights Reserved.